無題/ Non Title
W:250mm x D:120mm
材 : 榧木(かや) / material : Torreya tree
彫刻家・加藤巍山にとって「木」の存在とはどういったものなのでしょう。
材料であり、道具であり、仕事をする上で必要不可欠なもの。
おそらく彼の考える「木」とは、そんな物質的なものではありません。
人間が無の状態から、木を作り出すことはできません。
木は人間が現れるずっと前から存在しています。
そこには、自然に対する敬意があります。
宇宙は「空・風・火・水・地」という五大要素から成り立っていると考えられています。
世界の始まりから、悠久の時を経て、あらゆるものが調和を伴って現れています。
これは驚くべき事象です。
そのことを知ると、人は謙虚になり、自然に対して畏敬の念さえ覚えるでしょう。
彼は自分自身を表現するための「木」に対して、敬意を払い、愛着を持ち、そのものの本質と向き合っています。
そんな彼の根源的な存在である「木」を、今回の展覧会で皆様に見ていただく機会を持ちました。
会場への搬入や展示規則によって、大木を切断するという工程を経ましたが、彼によって新たな価値が与えられました。
大切な道具のひとつである「鎹(かすがい)」を利用して切断した箇所を繋ぎ合せています。
そうすることで、彼の想いがそこに宿るのではないでしょうか。
「鎹」という道具は「繋ぐ」ものなのです。
宇宙と世界を、世界と自分を、自分と誰かを、そうして人はすべてのものと繋がり合っているのです。
「天地開闢」の時から、ずっと繋がり合っているのです。
時に文明が滅びたとしても、再び繋がるのです。
それこそが「普遍的な美しさ」なのです。